絵踏

 長崎と言えば出島、そしてその出島に行き来することを唯一認められていたのが長崎の花柳界、丸山の遊女たちでした。外国人との交流を多く持った、その美しく聡明な彼女らの名は「丸山遊女」として海外にまで伝えられたとも言います。
 キリシタン狩りのための「踏み絵」はあまりにも有名で、踏み絵と聞くと、踏もうか踏むまいか苦悩する普通の商人や農民などの隠れキリシタンの姿を連想しますが、この作品で絵踏みをしようとしているのは、そんな暗い歴史とはまるで違う世界に住んでいるような華やかな丸山遊女。
 この丸山遊女らが絵踏みを行う日には、普段は見ることのできない着飾った艶やかな遊女達の素足が見られるということで、まるでお祭りのように一般の人たちがその様子を見物に訪れたとも言われています。
 この作品では、花魁姿の華やかさの中にも、そぼふる雪を思わせる頭につけたかんざしや飾りの純白に、寒中一月初頭(※絵踏みは毎年、旧暦の正月4〜8日に行われていた)に絵踏みを課せられたその素足の冷たさや痛々しさ、厳粛さを表現してみました。
 じゃがたらお春の母やシーボルトの妻・タキたちのように、出島に住む外国人と愛を交わした遊女達は、この踏み絵をどんな気持ちで踏んだのか、そんな長崎の女性たちの心中に思いを馳せながら見ていただきたい作品です。(平成11年制作)
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